急須「絞り出し」に光を

常滑焼作家ら東海の喫茶店主と協力

 東海市の日本茶専門の喫茶店主と、常滑市の急須職人有志が、常滑焼の伝統的な急須の一種「絞り出し」に光を当てようと動き始めた。急須特有の持ち手がなく、平べったく見慣れない形だが、誰にでも簡単においしくお茶を出せるという。メンバーらは「日本茶のよさを見直してもらうとともに、低迷する急須業界が上向くきっかけになれば」と期待している。 (朝田 憲祐)

 東海市高横須賀町の「茶肆(ちゃし)・道ちゅう庵」。店主の蟹江友啓さん(39)が、絞り出しに茶葉を広げる。ぬるめの湯を茶葉が浸る程度にそっと入れ、ふたをして待つこと一−二分。ふたを少しずらし、小ぶりの湯飲みに最後の一滴まで注ぐ−。

 「茶葉を広がらせることで、本来のうまみや香りが出るんです」と蟹江さん。少ない茶葉でおいしく飲むには、最適の入れ方なのだという。

 蟹江さんは二十八歳の時、京都・宇治のある店でお茶を飲み、日本茶のとりこに。サラリーマン生活の傍ら、全国の茶産地を回った。「日本茶の本当のよさを伝えていきたい」と三年前に脱サラ。自らの足で見つけた静岡や京都などの茶生産者十六人と仕入れの契約をし、店を開いた。

 常連客の中には、十月に亡くなった常滑焼の急須作家で、県内ただ一人の人間国宝山田常山さんもいた。常山さんは「茶葉で飲む習慣がなくなると、常滑の急須もなくなってまう。あんたんとこが頑張ってもらわんと」と口にしていたという。常山さん宅を訪れた際、絞り出しでお茶を入れてもらったことも、今回の取り組みのきっかけの一つになった。

 蟹江さんの動きに、常滑焼急須作家の村田益規さん(54)、片山白山さん(56)、水野博司さん(55)らが呼応。三人は、絞り出しも以前から手掛けてはいたが「問屋が売ってくれるものばかり作っており、茶葉のことは、あまり気にかけていなかった」と認め「作り手は、使い手でもないと」と気持ちを改めた。伊勢湾の海藻をまきつけて焼き上げる常滑伝統の「藻がけ」や、朱泥の製品を作っている。

 絞り出しは昔から使われてきたが、一般にはなじみが薄い。同店では、初めて目にする客がほとんどだ。高校生やお年寄り、外国人など幅広い客層の反応は上々で「手軽で、形もかわいい」と絞り出しと湯飲みのセットを買い求める女性客もいるという。

 出典=中日新聞2005年11月9日付け朝刊