えんがわさぼう
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(いっしょけんめい)
一所懸命(一生懸命の語源:野辺の草花は自ら主張せず、ただ無心に咲いている。そこに心を打たれるのだ)

 前々回、晩茶を何故に番茶と表さないのか。それは、晩い (おそい)意味を持つと説明した所から始めよう。

 その理由は、昔の茶摘みが年に1回若しくは2回だったから
だ。順序を追って説明すると、茶樹は南国の出身で高さ10
メートルを優に越すほど育つ喬木(高木)だ。幹もそれなりに
太い。一枚の葉の大きさも成人女性の靴のサイズと大差無い。
そして、生食や漬物として利用されたのが嚆矢。南国では現代
もそのまま利用されている。そんな大木を寒い土地で育てると
味が締まる。日本はチャの育つ北限と思って頂いて差し支え
ない。
 また、南国では平地で育っているはずの茶樹を、高い山へ
持って行き育てると香りが立つ。更に南国の強い陽射しを浴び
て育つよりも、日蔭で遮光された葉は甘みを蓄積する。日光が
足りないと光合成が働かずに枯れてしまう一般の植物とは異な
り、僅かな光を求めて葉の表面を薄く拡げる。だから、良い茶
は薄い葉がしっかりと撚(よ)れているので、湯を注いでも直ぐ
には拡がらず、何煎も楽しんでいる間に、ゆっくり元の葉の形
に開く。
 茶摘みの時期では茶葉の水分率は80パーセントを超える。
茶摘み体験の有る方は御存知だろうが、葉の柔らかさに驚く。
因みに晩(番)茶の頃は55パーセント程度。
 チャは悲しい遺伝子を持っていて、柿や梨のように養分の
貯蔵庫である大きな果実を作れない。根に芋も作れない。だか
ら“葉”の部分に養分を貯め込む他無い。チャの葉100gで
糖質が1〜3g採れるらしい。それだけ甘いのだ。
 蓋し人間に似ていないか?厳しい条件の下でこそ素晴らしい
味と香りと発する。そして尊い。甘やかされては駄目なのだ。
勿論、枯らすまで追い込んでは元も子もない。真の愛情だ。